Skip to content

岐路に立ちつつ

令和3年10月12日(火)
岐路(きろ)に立ちつつ(松下幸之助)
 動物園の動物は,食べる不安は何もない。他の動物から危害を加えられる心配も何もない。決まった時間に,いろいろと栄養ある食べ物を与えられ,保護されたオリの中で,ねそべり,アクビをし,ゆうゆうたるものである。
 しかしそれで彼らは喜んでいるだろうか。その心はわからないけれども,それでも彼らが,身の危険にさらされながらも,果てしない原野をかけめぐっているときのしあわせを,ときに心に浮かべているような気もするのである。
 おたがいに,いっさい何の不安もなく,危険もなければ心配もなく,したがって苦心(くしん)する必要もなければ努力する必要もない,そんな境遇(きょうぐう)にあこがれることがしばしばある。しかし,はたしてその境遇から力強い生きがいが生まれるだろうか。
 やはり次々と困難に直面し,右すべきか左すべきかの不安な岐路(きろ)にたちつつも,あらゆる力を傾け,生命(いのち)をかけてそれを切りぬけてゆくーそこにこそ人間として一番充実した張りのある生活があるともいえよう。
 困難に心が弱くなったとき,こういうこともまた考えたい。