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『守られるべき個性』

令和2年9月18日(金)
守られるべき個性
 今日は少々長いですが,平成30年県人権作文コンテスト最優秀賞,当時小学校6年生だった女子児童の「守られるべき個性」の作文を紹介します。
 「女の人の格好をしている男の人のことは何て言うんですか。」私は笑いながら,先生に質問した。ちょっとした冗談。軽い気持ちで。
 7月の外国語の授業でのことだ。この日は,友だちにインタビューしたことを「ヒー」や「シー」を使って紹介する学習をした。
「ヒー キャン ラン ファスト」「男の人はヒー,女の人はシーを使います」先生が説明されたとき,私は,最近よくテレビで見る人たちのことを思い出し,深く考えずに質問していた。冗談のつもりで,笑いながら。
 でも,先生の反応は意外なものだった。先生はしばらく考えてから,真剣な顔で,ゆっくりと話し始められた。
「基本的には,男の人はヒーだね。でも,自分は男性に生まれてきたけど,それを受け入れたくなくて,女性として扱ってほしいと本人が思っているなら,シーを使った方がいいと思うよ。」
 思ってもいない展開だった。いつも,先生は冗談を言ったり楽しく話したりされるから,この日も軽く返してくれると思っていた。が,先生はニコリともせず,いつもより真面目に答えられた。男らしく,女らしくと言うことは,決めつけることではないこと,人それぞれの思いがあり,周りに理解されずに苦しんでいる人がいることも付け加えられた。それを聞いたAEAの先生も,
「そうですね。その場合はそれがいいですね。」とうなずかれた。
 私は,言葉が出ず,何となく思い空気の中,着席した。「どうしよう。」その後の授業は,どんなことをしたか覚えていない。みんなは何事もなかったかのように過ごしていたが,私の頭の中には,以前先生がおっしゃったある言葉が浮かんでいた。
「自分の口から一度出た言葉は,もう戻すことができないんだよ。」それを痛感していた。先生が,私を叱るわけでもなく,静かな声で話をされたことも私の後悔を大きくした。
 私は,正直,今まで,男の人が女の人の格好をしてテレビに出たりしているのは変だなと感じていた。男は男,女は女でいいじゃないかと。でも,自分の性別を受け入れられずに苦しんでいる人のことや,真剣に変わりたいと悩んでいる人もいることを知って,からかいの気持ちをもつことに恥ずかしさを感じた。きっと,その人たちは,周りの人に分かってもらえずに嫌な気持ちもされただろう。私は冗談半分で言った自分の言葉が,どれだけ失礼なことだったか思い知らされた。
 人には,それぞれの趣味や個性がある。私にだってある。それを,他人の一言で,変えたりあきらめたりすることは,もっと変だと思った。私には,応援しているアイドルがいる。友達は,大っぴらにアイドルの話をして楽しそうにしているが,私は同じようには,なかなかできない。それは,私がそういうことをすると,周りの人に,「へぇ,○○さんがそういう趣味なんて意外だ。」と言われるかも知れないと思うからだ。イメージだけで自分の人格を決められて嫌な思いをしたくないと思っているのに,私がしたことは,自分がしてほしくないと思っていることそのものだと気づいた。誰でも,一人一人の思いや考えがあり,周りの人が,それを理解するための知識を持つことが必要なのだと改めて思った。
 もし,あの外国語の時間に,先生に真剣に教えてもらわなければ,私はこんな気持ちにはならなかっただろう。百人いれば百通りの考えの人がいる。お互いを認め合うことを忘れないようにしたい。一人一人が違うから面白いし,違って当たり前なのだから。