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『大きな傷』

令和2年12月3日(木)
大きな傷
 今日は,ある女子生徒が書いた作文「大きな傷」を紹介します。
私は母の顔がすごく嫌いでした。なぜなら大きなやけどの跡があるからです。よそのお母さんはあんなに綺麗なのに,何で私のお母さんはとか,何でこの人が母親なんだろうとさえ思ったことがありました。
そんなある日のこと。その日の四時間目のこと私はあることに気づきました。夕べ徹夜で仕上げた家庭科の課題が手元に無いのです。
どうやら家に置いてきてしまったようです。あたふたして勉強も手につきません。家庭科の授業は五時間目。私は昼休みに自宅まで取りに帰る事を決心しました。四時間目も終わり帰る準備をしていたところ,クラスメートが「めぐみ~,めぐみ~,お母さん来てるよ」と言いました。
 私は,はっとしました。急いで廊下に出てみると何と母が忘れた課題を学校まで届けに来ていたのです。
「なんで学校にきてるのよ!取りに帰ろうと思ってたのに!」と息を立てて問い詰めると,
「でも,めぐみちゃん夕べ頑張ってやってたから」 と言いました。
 私は,「おばけみたいな顔して学校来ないでよ,バカ!」と言って母から課題をひったくるように取り上げるとすたすたと教室に入って行きました。自分の母親があんな顔をしていることを友人達に知られてしまったことで私は顔から火が出る想いでした。
その日の夕飯後のこと私は父親に呼ばれました。昼間のことで怒られるのだろうな,と思いました。すると父親は予想に反してこんな話をはじめました。
「お前がまだ生まれて数ヶ月の頃隣の家で火事があってな。その火が燃え広がってうちの家まで火事になったことがあったんだよ。そのときに二階で寝ていたお前を助けようと母さんが煙に巻かれながらも火の中に飛び込んでいったときに顔に火傷を負ってしまったんだよ。今お前の顔が綺麗なのは母さんが火の中に飛び込んでいってお前を助けたからだよ。」
 私はそんなことは,はじめて聞きました。そういえば今まで火傷の理由を母から聞いてもあやふやな答えしか返ってきたことはありませんでした。
「なんで今まで黙ってたの?」私は涙ながらに母親に聞くと,
「めぐみちゃんが気にすると思ってずっと黙ってようと思ってたんだけど」と言いました。私は母への感謝の気持ちと今まで自分が母親に取ってきた態度への念とで胸が張り裂けそうになり「お母さん~」と言って母の膝の上でずっと泣いていました。
 今では自分の母の顔のことが誇りにさえ思えるようになりました。
 家族を,私を守ってくれた母のこの顔の傷のことを。